インスリノーマ|千代田区の犬と猫の内科の病院「まつき動物病院」

診療科目と症例紹介

インスリノーマ

インスリノーマ(insulinoma)はなかなか聞き慣れない病名だと思います。血糖値を下げるホルモンであるインスリン(insulin)と、腫瘍を表す接尾語(-oma)の造語で、つまりインスリンを出す腫瘍のことです。中年〜高齢の犬でときどきみられます。猫ではまず起こりません。

健康な人間や動物では、インスリンは膵臓だけから出ています。膵臓の中でインスリンを出している細胞をβ細胞(ベータさいぼう)と呼びます。このβ細胞が腫瘍になったものがインスリノーマです。

健康な体では、血糖値がある程度まで低くなるとインスリンが出なくなり、血糖値がそれより下がらないようになっています。しかしインスリノーマは腫瘍(犬の場合は癌)ですから、血糖値が低かろうが関係ないとばかりにインスリンを出し続けることで、血糖値が限界を超えて下がります。

血糖(血液中のブドウ糖)をエネルギー源として一番多く使っているのは脳です。脳にブドウ糖が行き渡らなくなると、脳が誤作動を起こし、全身がけいれんします。これを「低血糖発作」と呼びます(動画)。

低血糖発作はお腹が空いているときや運動をしたときに起こりやすいです。食後には血糖値が多少なりとも上がるので、発作は起こりません。低血糖に気づかなければ、てんかんなどの脳の病気に見えるかもしれません(犬のてんかんの発作と低血糖発作は、外見上は似ています)。

もし中年〜高齢のわんちゃんが初めてけいれんを起こしたら、動物病院で血糖値を測ってもらってください。多くの病院では、血糖値だけではなく、腎臓、肝臓、血液中のカルシウムの異常など、けいれんの原因になる他の病気の検査もして頂けると思います。

けいれんを起こさないまでも、低血糖によって興奮し、攻撃的になる、体が震える、足がふらつくなどの異常がみられることがあります。

インスリノーマの治療は

  • 空腹にしないよう、食事を小分けにして与える
  • 発作でないときは糖分をむやみに与えない(インスリンが余計に出るため)
  • 低血糖発作のときには躊躇なくブドウ糖液(ガムシロップ)を口に含ませる
  • ステロイド剤(血糖値を上げる飲み薬または注射)
  • ジアゾキシド(血糖値を上げる飲み薬)
  • グルカゴン(血糖値を上げるホルモン剤)
  • ストレプトゾトシン(インスリノーマ専用の抗がん剤)
  • 外科手術

などを組み合わせて行います。犬のインスリノーマは大きくなるのが遅い癌なので、早期発見できれば手術で完治できる可能性もあります。毎年検診を受けているわんちゃんは、一昨年や去年と比べて急に血糖値が下がっていないか確認してあげてください。

(院長 松木)