壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)|千代田区の犬と猫の内科の病院「まつき動物病院」

診療科目と症例紹介

壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)

はじめに

壊死性髄膜脳炎(Necrotizing meningoencephalitis:NME:別名パグ脳炎:Pug dog encephalitis)は、限られた小型犬種に発生する脳の病気です。現在のところNMEは原因不明であり、確実な治療法も知られていません。院長松木は大学時代にNMEの研究をしていました。大学HPの記事を一部転載して、概要を説明します。

シグナルメント

これまでNMEの自然発症が報告されているのは、パグ、マルチーズ、シー・ズー、ペキニーズ、チワワ、ポメラニアン、パピヨンなど、限られた小型犬種のみです。このためNMEは遺伝的素因(家系)に影響されやすいと考えられます。NMEは4ヶ月-10歳以上で発症しますが、多くは1-3歳です。雌のほうが雄より若干発症しやすいです。

症状

NMEの病変は大脳皮質に発生し、進行します。これに伴って臨床症状も進行します。初期症状は発作、運動失調、視力障害などがみられます。そして次第に旋回運動、昏睡、摂食障害、遊泳運動などがみられるようになります。最終的には重積発作や誤嚥により死亡するか、それ以前に安楽死が選択されます。

 
NMEを発症して昏迷状態に陥ったパグ犬

画像診断

MRI(またはCT)で特徴的な脳病変を観察できます。初期病変は大脳の髄膜直下または皮髄境界(灰白質と白質の境界)に起こります。これらの病変は数日-数週間で軟化・壊死し、大脳皮質は萎縮します。NMEの確定診断は病理検査によりますが、現実的には犬種や特徴的なMRI所見から、高精度で(仮)診断できます。


NMEのMRI像:大脳皮質の軟化が激しい

 

治療

初期治療としては免疫抑制量のステロイド剤(プレドニゾロン 2 mg/kg/day)を投与します。少なくとも6カ月間は1 mg/kg/day 以上の用量で継続するようにします。ステロイドと併用するメリットのある免疫抑制剤として、

  • シタラビン
  • レフルノミド
  • シクロスポリンA

があります。また、抗てんかん薬を充分に投与し、発作を防ぎます。

予後

NME の予後は大きく二分されるようです。免疫抑制治療で脳の壊死がコントロールできなければ症状が急激に進行します。このような症例は1日-数週間で死に至るか安楽死が選択されます。一方、治療によく反応する症例は数年以上の生存が見込めます。

抗GFAP自己抗体:診断マーカーとして

NMEの犬では、脳脊髄液中にグリア線維性酸性蛋白質(GFAP)に対する自己抗体が認められます。NME症例の100%が自己抗体陽性であり、疾患に対する感度は非常に高いです。抗GFAP自己抗体の検査は(株)富士フイルムモノリスで受託しています。

培養アストロサイトを用いた自己抗体検査(IFA)

関連する我々の論文

  1. Matsuki, N., Fujiwara, K., Tamahara, S., Uchida, K., Matsunaga, S., Nakayama, H., Doi, K., Ogawa, H. and Ono, K. Prevalence of autoantibodies in cerebrospinal fluids from dogs with various CNS diseases. J. Vet. Med. Sci. 66(3): 295-297, 2004.
  2. Shibuya, M., Matsuki, N., Fujiwara, K., Imajoh-Ohmi, S., Fukuda, H., Pham, N.-T., Tamahara, S., and Ono, K. Autoantibodies against Glial Fibrillary Acidic Protein (GFAP) in Cerebrospinal Fluids from Pug Dogs with Necrotizing Meningoencephalitis. J. Vet. Med. Sci. 69: 241-245, 2007.
  3. Toda, Y., Matsuki, N., Shibuya, M., Fujioka, I., Tamahara, S., and Ono, K. Glial fibrillary acidic protein (GFAP) and anti-GFAP autoantibody in canine necrotizing meningoencephalitis. Vet. Rec. 161: 261-264, 2007.
  4. Fujiwara, K., Matsuki, N., Shibuya, M., Tamahara, S., and Ono, K. Autoantibodies against glial fibrillary acidic protein in canine sera. Vet. Rec. 52: 592-593, 2008.
  5. Pham, N.-T., Matsuki, N., Shibuya, M., Tamahara, S., and Ono, K. Impaired Expression of Excitatory Amino Acid Transporter 2 (EAAT2) and Glutamate Homeostasis in Canine Necrotizing Meningoencephalitis. J. Vet. Med. Sci. 70: 1071-1075, 2008.
  6. Matsuki, N., Takahashi, S., Yaegashi, M., Tamahara, S., and Ono, k. Serial examinations of anti-GFAP autoantibodies in cerebrospinal fluids in canine necrotizing meningoencephalitis. J. Vet. Med. Sci. 71: 99-100, 2009.