前の項では犬のインスリノーマについて書きました。インスリノーマは膵臓のβ細胞(ベータさいぼう)の腫瘍です。β細胞があればα細胞(アルファさいぼう)もあります。
α細胞はグルカゴンという血糖値を上げるホルモンを出します。健康な体では、血糖値を下げるインスリンと血糖値を上げるグルカゴンが互いに牽制しあって、血糖値を正常な範囲に保っています。
このα細胞が腫瘍になったものをグルカゴノーマと呼びます。犬でときどきみられます。猫ではまず起こりません。
グルカゴノーマがグルカゴンを出しすぎることで、血糖値が上がってしまい、糖尿病と同じ状況になります。それだけではありません。グルカゴンは体内のタンパク質やアミノ酸を分解してエネルギーに変えてしまうので、体内のアミノ酸が不足します。
体内のアミノ酸が足らなくなると、影響を受けやすいのは皮膚です。犬の場合、手足の肉球の皮が剥けたり、唇や瞼の皮膚が荒れてきます。また、肝臓に負担がかかり、血液検査で肝臓の異常が見つかったり、肝硬変になることもあります。
グルカゴノーマは獣医師のなかでも知名度が低いので、「よく分からないがタチの悪い糖尿病」と思われていることが少なくありません。
グルカゴノーマの治療には、オクトレオチドという、グルカゴンが出にくくなる注射を使います。オクトレオチドはとても高価で、数週間ごとに数万円の注射をすることになります。他には良い治療法がないため、獣医師にとっても飼い主様にとっても悩ましい病気です。
(院長 松木)